民生部品の活用と超小型人工衛星への搭載により、低コスト化と開発期間の短縮を実現
開発した光源モジュール
三菱電機株式会社は、民生部品を活用した宇宙光通信用レーザー光源モジュールの軌道上実証において、宇宙空間環境下での6カ月間の性能評価を実施した結果、性能劣化がないことを確認しました。これにより、エクストラサクセスを含む全サクセスクライテリア(※1)を達成しました。なお、宇宙空間環境下における光部品の性能劣化を実環境下にて評価したのは当社が世界で初めて(※2)となります。
近年、災害現場の状況把握や森林資源の保護など、さまざまな用途で人工衛星による撮影画像の活用が進んでいます。しかし、従来の電波を利用した衛星通信では、撮影画像の地上送信や衛星間の送信に際して通信容量や通信時間、通信距離などの制約があります。一方、宇宙光通信は電波による通信に比べて10倍以上の大容量化や高速化に加え、長距離通信を実現できることから、静止軌道衛星を介して低軌道衛星と地上局を常時接続することなどが検討されています。また、レーザー光線は電波に比べて波長が短く、地上の受信アンテナのサイズも小型化できるため、インフラの機能が停止した災害地域への運搬や、基地局の設置が難しい過疎地域や砂漠への設置、移動体への搭載などを可能とし、さまざまな状況でも衛星からの大容量通信を実現できます。そのため、世界では高価な宇宙専用部品を用いた宇宙光通信の活用が進んでいます。
これまで当社は、地上光ファイバー通信などで使用される、汎用的かつ高性能な1.5μm帯レーザーを活用し、宇宙光通信機器の開発を進めてきました。2022年5月に光受信器を開発(※3)した後、放射線や熱真空の影響を抑え、民生部品を活用した超小型人工衛星への搭載が可能なレーザー光源モジュールを開発しており、従来(※4)と比較して高性能化や低コスト化、開発期間の短縮を実現しています。このモジュールを産学連携プロジェクトで開発した超小型人工衛星「OPTIMAL-1」(※5)に搭載し、宇宙光通信において重要なレーザー光周波数制御の軌道上実証を2023年1月から実施(※6)してきました。この実証において得られた6カ月間の光源出力光パワーの数値をもとに性能評価を行った結果、出力性能の劣化がないことを確認し、宇宙空間環境下において当初計画されていた目標以上の成果が得られました。これにより、設定した4段階全てのサクセスクライテリアを達成しました。
当社は今後も技術開発を推進し、より早期の大容量宇宙光通信の実現と社会実装を通じて、安心・安全・快適な社会の実現に貢献します。
■実証の特長
1.レーザー光源モジュールの宇宙空間での性能評価を世界で初めて実証し、全サクセスクライテリアを達成
・衛星間でレーザー光線による通信を行う場合、人工衛星はそれぞれの速度で動くためドップラー効果(レーザー光周波数の変化)が発生。特に速度差が大きい低軌道衛星-静止衛星間の中継通信においては、ドップラー効果の影響を低減するレーザー光周波数の補正が必須となるため、宇宙空間環境下で安定動作する部品選定や基板設計などのノウハウを基に、放射線や熱真空の影響を抑えた実証用光源モジュールを開発。これにより、民生部品を活用した光源モジュールにおいて、ドップラー補正に必要なレーザー光周波数変化量が地上評価時と比べて劣化しないことを世界で初めて実証
・放射線などの影響により、レーザー出力が劣化する宇宙空間環境下における性能評価をエクストラサクセスとして実施した結果、低軌道環境下で6カ月経過後も光パワーが維持されており、性能劣化がないことを確認。この結果、宇宙光通信用光源モジュールの軌道上実証において、ミニマム・ミドル・フルサクセスを含めた全サクセスクライテリアを達成
地上評価と軌道上での実証における性能評価比較
6カ月間にわたる性能評価(●:実際の数値、I:測定誤差)
今回の軌道上実証における全サクセスクライテリア
2.産学連携の超小型人工衛星を活用し、迅速かつ低コストでの軌道上実証を実現
・福井大学、アークエッジ・スペースなどとの産学連携により、超小型人工衛星を活用した軌道上実証を実現
・大型人工衛星を用いた際の課題であった、計画から軌道上実証(※7)までの開発期間を約3分の1の3年へ短縮、コストを約100分の1へ削減
■関係者コメント
株式会社アークエッジ・スペース 代表取締役 CEO 福代孝良氏 コメント
「近年、宇宙利活用の進展により、衛星搭載カメラで撮影したデータを大容量かつ高速に地上にダウンリンクしたいというニーズが高まっています。こうした中、宇宙光通信用レーザー光源モジュールの軌道上実証が成功裏に進展し、衛星通信の大容量化、高速化、低コスト化に大きく寄与したことは大変大きな成果です。また、本モジュールは、3Uサイズの超小型衛星に複数搭載されたミッションの一つであり、超小型衛星を活用した宇宙用コンポーネントの軌道上実証用プラットフォームの有用性が確認されたという点でも大きな意義がありました。本成果が、さらなる超小型衛星の利用拡大につながることを期待します。」
福井大学 特命准教授 青柳賢英氏 コメント
「今後の宇宙産業の発展のためには、高性能な地上民生部品の技術を積極的に取り入れていく必要があり、そのためには、軌道上での動作実績を積むことが重要です。今回のOPTIMAL-1での実証の成功は、光通信が可能な超小型衛星の実現に向けて、大変重要な成果です。この成功をきっかけに、さらに超小型衛星の産業利用が進展していくことを期待します。」
■今後の予定・将来展望
宇宙光通信の実現に向けて、宇宙光通信用レーザー光源モジュールの技術開発をさらに進めるとともに、主に官需開発プログラムへ提案していきます。また、超小型人工衛星など宇宙実証プラットフォームを積極的に活用し、光部品の宇宙空間環境への適応に向けた研究開発を推進していきます。
※1 サクセスクライテリアは、主に宇宙科学の分野におけるプロジェクトが成功したと評価するための具体的な基準や目標。エクストラサクセスは、難易度別に設定された複数段階の基準に照らし、目標以上の成果を達成すること
※2 2024年9月19日現在、当社調べ
※3 2022年5月31日広報発表
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/news/2022/0531-b.html
※4 当社の従来の宇宙空間環境下での実証試験との比較
※5 株式会社アークエッジ・スペースが主導し、経済産業省の産業技術実用化開発事業費補助金(宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業)に採択され、「TRICOM衛星による超小型推進系・通信装置及び軌道上高度情報処理技術の実証事業」をテーマとして開発。株式会社Pale Blue、セーレン株式会社、国立大学法人福井大学、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科、三菱電機が参画。国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟から2023年1月6日に宇宙空間への放出が完了。横10cm×奥行10cm×高34cmの直方体
※6 2023年6月20日広報発表
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/news/2023/0620.html
※7 宇宙空間環境下での6カ月経過後の性能評価まで含む
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三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
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