公益財団法人旭硝子財団(理事長:島村琢哉)は、1992年より、毎年、世界の環境有識者を対象に環境アンケート調査を実施しております。今年は日本を含む202カ国に調査票を送付し、127カ国 1,876名から回答を頂きました。以下に本年度の調査結果の要点を発表致します。調査結果の詳細は「第31回地球環境問題と人類の存続に関するアンケート調査報告書」に発表すると共に、9月8日午前11時より財団ウェブサイト(http://www.af-info.or.jp)でもご覧頂けます。
●今年の環境危機時計の時刻は9時35分で、昨年より7分針が戻った。2年連続で針が戻ったのは12年ぶり。
●世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ北米、アフリカ、中東、東欧・旧ソ連で10分以上針が進んだ。
●危機時刻を決める上で念頭に置いた項目は2011年以来一貫して「気候変動」が最多。
●脱炭素社会への転換、気候変動の改善に関し、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。
●SDGsの中で、2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」が最も多く選ばれ、「2.飢餓をゼロに」、「16.平和と公正をすべての人に」が続く。
●日本のSDGsの取り組み、2030年の達成度が最も高いと思う目標は「6.安全な水とトイレを世界中に」、達成度が最も低いと思う目標は「5.ジェンダー平等を実現しよう」。
I 環境危機時計(R)~人類存続の危機に対する認識
I-1 環境危機時計(R)の時刻
・世界の環境危機時計(R)は、2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から2年連続で時計の針が戻って9時35分になった。2年連続で針が戻ったのは12年ぶりである。(表1)
・世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ太平洋に面したアジア、オセアニアでは10分以上針が戻ったが、北米、アフリカ、中東、東欧・旧ソ連で10分以上針が進むという二極化が見られた。
・北米、オセアニア、西欧は10時台であり、高いレベルの危機意識をもっている。
※赤色は昨年より時刻が進んだ地域・国、緑色は昨年より時刻が戻った地域・国
・調査開始以降の世界全体の危機時刻の推移では、1996年以降、2000年を除いて、常に9時台の「極めて不安」の領域を示している。(図4)
・日本は昨年から針が3分戻って9時33分となり、世界平均より2分遅れた時刻を示している。日本は近年、世界平均と差はほとんどない。(図4)
・世界の環境危機時刻は、2011年以来針が進む傾向にあったが、2021年から2年連続で時計の針が戻って9時35分になった。2年連続で針が戻ったのは12年ぶりである。 (図4)
I-2 回答者の年代層による環境危機時刻の推移 (2013年~2022年)
・今年は60代以上のみ環境危機時刻が進み、20~50代では前年より時計の針が戻った。(図5)
・20 代、30 代の環境危機時刻は、2013年の9時1分から上昇傾向にあり、2018年には中国の20代、30代の回答者の危機意識が高くなった影響を受け10時00分となったが、今年は環境危機時刻が昨年より16分、大きく戻った。(図5-1)
・中国は回答者数が多く、その回答者の9割近くを占める20代、30代の人々は、政府の環境対策を評価し、中国での環境問題は良い方向に向かっていると考えているようである。(図5-2)
II 危機時刻記入にあたって念頭においた「地球環境の変化を示す項目」(世界)
本調査は、危機時刻を決める上で、次の「地球環境の変化を示す9項目」から、回答者が住む国または地域において最も深刻だと思われる環境問題を1位~3位で選んでいただいた。(2020年、2021年の調査結果は「2022年調査報告書」に比較データとして記載)
地球環境の変化を示す9項目:
1. 気候変動、2. 生物圏保全性(生物多様性)、3. 陸域系の変化(土地利用)
4. 生物化学フロー(環境汚染)、5. 水資源、6. 人口、7. 食糧、8. ライフスタイル(消費性向)、
9.社会、経済と環境、政策、施策
II-1 地球環境の変化を示す9項目の加重平均選択率
・危機時刻の記入にあたり念頭においた項目の選択率について、世界全体では「気候変動」が32%で最多、次いで13%の「生物圏保全性(生物多様性)」が続き、この順は5年連続で同じ。(図6)
II-2 危機時刻の順位
・世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時刻順に並べると、「社会、経済と環境、政策、施策」(9時49分)、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時43分)、「気候変動」(9時40分)、「ライフスタイル」(9時38分)が世界平均(9時35分)よりも進んでいる。(図6)
・特徴的なのは、これまで「生物圏保全性(生物多様性)」の時刻が最も進んでいたが、今年は「社会、経済と環境、政策、施策」が昨年の9時34分から15分進んで9時49分と最も危機意識が高い項目になっていることで、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が出ていると推察される。
III 環境問題への取り組みの改善の兆し ―パリ協定、SDGs採択(2015年)以前との比較
環境問題への取り組みの改善の兆しとして、1.「一般の人々の意識」、2.「政策・法制度」、3.「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の3つの観点から、脱炭素社会への転換と「地球環境の変化を示す項目」について問うた。
(「全く進んでいない」を「-2」、「どちらかといえば進んでいない」を「-1」、「どちらかといえば進んでいる」を「+1」、「確実に進んでいる」を「+2」として数値化し平均値を出した)。
III-1 脱炭素社会への転換の進み具合に関する認識
・脱炭素社会への転換については、どちらかといえば進んでいるが、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」は昨年から変化がないと認識されている。(図7:報告書 表8から作成)
III-2 気候変動の改善の兆しに関する認識
・改善の兆しがある項目として最も多く選ばれたのは、「気候変動」(30.0%)で、ついで「社会、経済と環境、政策、施策」(15.1%)、「ライフスタイル(消費性向)」(14.5%)と続く。(表2)
・「気候変動」について、回答者は政策、法制度(0.75)や社会基盤(0.71)よりも、一般の人々の意識(1.28)について改善の兆しを見出している。(表2)それぞれの指標値は昨年からほとんど変わっていない。(図8:報告書 表10から作成)
IV 持続可能な開発目標 (SDGs)の達成可能性に関する認識
持続可能な開発目標 (SDGs)の達成可能性に関して、世界平均で見たときと、自分が住む国・地域で見たときに、17 ある目標の中で2030 年に達成度が高いと思う目標、低いと思う目標を3つずつ選び、それぞれ高いもの、低いものから順に1 位、2 位、3 位を選んでもらった。回答は1~3位の百分率の積上げで、各項目を比較し、図9に示した。それぞれの地域、国ごとのデータは、「2022年調査報告書」に記載。
・世界で2030年に達成度が高いと思う目標として、「9.産業と技術革新の基礎をつくろう」、「13.気候変動に具体的な対策を」が1,2位で、多くの国で選ばれており、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が3位となっている。(図9-1、緑)
・世界で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」が最も多く選ばれ、これに「2.飢餓をゼロに」、「16.平和と公正をすべての人に」が続き、これらの目標の実現は世界で多くの人が難しいと考えていることがわかる。(図9-1、赤)
・自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、世界平均としては、「2.飢餓をゼロに」、「4.質の高い教育をみんなに」、「6.安全な水とトイレを世界中に」の三つが選ばれている国・地域が多い。(図9-2、緑)
・自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」、
「10.人や国の不平等をなくそう」、「13.気候変動に具体的な対策を」の三つを選ぶ人が多かった。目標1と目標10の二つは、世界を見た時にも2030年に達成度が低いと思う目標に選ばれており、世界的に共通の課題である。(図9-2、赤)
・日本人が国内で2030年の達成度が最も高いと思う目標として「6.安全な水とトイレを世界中に」、達成度が最も低いと思う目標として「5.ジェンダー平等を実現しよう」が選ばれた。
本調査は回答者から世界各国における環境問題の実情やご意見、改善策を記入して頂く自由記述欄を設けております。今年は海外95カ国、約430件、国内約280件のご意見を頂きました。いただいたコメント、ご意見の抜粋を、9月8日午前11時より財団ウェブサイトに掲載致します。
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【調査概要】
・調査期間:2022年4月から6月
・調査機関:旭硝子財団
・調査対象:世界各国の政府・自治体、非政府組織(NGO/NPO)、大学・研究機関、企業、マス・メディア等で環境問題に携わる有識者(旭硝子財団保有データベースに基づく)
・有効回答数:1,876
・調査方法:調査票を日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語の6カ国語で作成し、毎年4月に調査票を送付し6月までに回答を得、世界各地域のご意見を比較・分析して9月に調査結果発表
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