公益財団法人旭硝子財団(理事長:島村琢哉)は、1992年より、毎年、世界の環境有識者を対象に環境アンケート調査を実施しております。今年は日本を含む202カ国に調査票を送付し、128カ国 2,093名から回答を頂きました。調査結果の詳細は「第33回地球環境問題と人類の存続に関するアンケート調査報告書」に発表すると共に、財団ウェブサイト(
http://www.af-info.or.jp )でもご覧頂けます。 また、日本国内の一般人を対象とした「第5回 生活者の環境危機意識調査」の結果も同時に発表します。
● 今年の環境危機時計(R)の時刻は9時27分で、昨年より4分針が戻った。2021年から4年連続で時計の針が戻った。
● 世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ、西欧では19分針が進んだが、それ以外のすべての地域で針が戻った。
● 危機時刻を決める上で念頭に置いた項目は2011年以来一貫して「気候変動」が最多。
● 野生生物の生息地の保全・再生について、進んでいると考える人は少なく、脱炭素社会への転換に比べても遅れていると考えられている。
● 2030年までの目標達成に向けて、全目標達成を100%としたときの2024年時点でのSDGsの感覚的な達成度は、日本では27%、世界では31%であった。
● 日本で2030年の達成度が最も低いと思う目標は「1.貧困をなくそう」、達成度が高いと思う目標は「4.質の高い教育をみんなに」だった。
I 環境危機時計(R)
~人類存続の危機に対する認識
I-1 環境危機時計(R)
の時刻
・環境危機時計(R)の時刻は、2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から4年連続で時計の針が戻って9時27分になった。(図1)
図1 過去6年間の環境危機時計(R)の時刻の推移(世界)
・世界各地域の環境危機時計(R)の時刻を見ると、昨年に比べ、西欧では19分針が進んだが、それ以外のすべての地域で針が戻った。特にメキシコ・中米・カリブ諸国では35分、中東では44分と大きく針が戻った。
図2 世界の各地域の環境危機時計(R) の時刻(赤は昨年より時刻が進んだ地域・国、緑は昨年より時刻が戻った地域・国)
・調査開始以降の世界全体の環境危機時計(R) の時刻の推移では、1996年以降、2000年を除いて、常に9時台の「極めて不安」の領域を示している。(表1・図3)
図3 1992年以降の世界と日本の環境危機時計(R) の時刻の推移
・世界で針が戻った地域が多い中、日本は昨年から針が6分進んで9時37分となった。(図3)
I-2 回答者の年代層による環境危機時刻の推移 (2015年~2024年)
・60代以上の回答者は、他の世代よりも進んだ環境危機時計(R) の時刻を回答する傾向がある。
・今年は20代から50代の示す環境危機時計(R)の時刻は戻り、60代以上では時刻が進んだ。60代以上とそれ以外とで環境問題の現状の捉え方の二分化が顕著になってきた。(図4)
図4 世代別の環境危機時計(R) の時刻の推移
図5 回答者の多い地域・国の環境危機時計(R) の時刻の推移
・中国の回答者の8割以上を占める20代、30代の人々は、政府の環境対策を評価し、中国での環境問題は良い方向に向かっていると考えているようである。(図5)
・台湾の回答者は、20~40代の人が約8割を占め、例年8時台の危機時刻を回答している。
II 環境危機時計(R) の時刻記入にあたって念頭においた「地球環境の変化を示す項目」(世界)
本調査は、時刻を決める上で、次の「地球環境の変化を示す9項目」から、回答者が住む国または地域において最も深刻だと思われる環境問題を1位~3位で選んでいただいた。(調査結果の詳細は調査報告書をご参照ください。)
地球環境の変化を示す9項目:
1. 気候変動、2. 生物圏保全性(生物多様性)、3. 陸域系の変化(土地利用)
4. 生物化学フロー(環境汚染)、5. 水資源、6. 人口、7. 食糧、8. ライフスタイル(消費性向)、
9.社会、経済と環境、政策、施策
II-1 地球環境の変化を示す9項目の加重平均選択率
・環境危機時計(R)の危機時刻の記入にあたり念頭においた項目の選択率について、世界全体では「気候変動」が30%で最多、次いで13%の「生物圏保全性(生物多様性)」が続き、この順は7年連続で同じ。(図6)
II-2 環境危機時計(R) の危機時刻の順位
・世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計(R) の時刻順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時46分)、「気候変動」(9時33分)、「社会、経済と環境、制作、施策」(9時33分)が世界平均(9時27分)よりも進んでいる。(図6)
図6 地球環境の変化を示す項目の分布図
III 「気候変動」と「生物多様性の喪失」の問題に関する認識
「気候変動」と「生物多様性の喪失」の問題に関して、1.「一般の人々の意識」、2.「政策・法制度」、3.「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の3つの観点から、地球温暖化抑制のための「脱炭素社会への転換」と「野生生物の生息地の保全・再生」の自国内での進捗の認識について質問した。
(「全く進んでいない」を「-2」、「どちらかといえば進んでいない」を「-1」、「どちらかといえば進んでいる」を「+1」、「確実に進んでいる」を「+2」として数値化し平均値を出した)。
III-1 脱炭素社会への転換の進み具合に関する認識
・脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。(図7:報告書 表8から作成)
図7「脱炭素社会への転換の進み具合」:3つの観点からの平均値の推移
III-2 「野生生物の生息地の保全・再生」の進み具合に関する認識
・野生生物の生息地の保全・再生については、進んでいると考える人は少なく、脱炭素社会への転換に比べても遅れていると考えられている。
・20代、30代の人々は、他の世代よりも野生生物の生息地の保全・再生が進んでいると考えている人が多い。(表2:報告書 表9から作成)
IV 持続可能な開発目標 (SDGs)に関する認識
17ある持続可能な開発目標 (SDGs)の中で、2030年に達成度が高い・低いと思う目標をそれぞれ3 つ選んでもらった。上位の回答の3つの目標を表3-1, 3-2に示した。それぞれの地域、国ごとのデータは、「2024年調査報告書」に記載。
・2030年に達成度が高いと思う目標として、世界平均としては、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」(23%)、「4.質の高い教育をみんなに」(20%)、「13.気候変動に具体的な対策を」(18%)の三つが選ばれている国・地域が多い。一方、「達成度が高いと思うものはない」を選んだ回答者も23%いた。
・2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」(36%)、「10.人や国の不平等をなくそう」(27%)、「13.気候変動に具体的な対策を」(25%)の三つを選んだ回答者が多かった。
2030 年までの目標達成に向けて、17 あるSDGs が、全体として2024 年時点でどの程度達成できていると思うか、全目標達成を100% として、1~ 100 の5%刻みの数値で回答してもらった。
図8 2024年時点での感覚的なSDGs の達成度 (%)の分布
・回答者の15.1%が達成度0%、9.5%が目標達成に向かっているとは思わないと回答し、平均は31.0%であった。(図8)
・SDGsの達成度については人によって感じ方の違いが大きい。2024年報告書(図18)に示すように年齢による感じ方の違いも大きく、若い世代のほうが達成度を高く感じる傾向にあった。
本調査は回答者から世界各国における環境問題の実情やご意見、改善策を記入して頂く自由記述欄を設けております。今年もアンケート回答とともに有意義なご意見やコメントを多数いただきました。それらの中から抜粋したものを、財団ウェブサイトに掲載致します。環境問題に関する有識者の生の声を是非ご覧ください。
https://www.
af-info.or.jp/questionnaire/result.html
<調査概要>
調査時期: 2024年4月から6月
調査機関:旭硝子財団
調査対象: 世界各国の政府・自治体、非政府組織(NGO/NPO)、大学・研究機関、企業、マス・メディア等で環境問題に携わる有識者(旭硝子財団保有データベースに基づく)
有効回答数: 2,093
調査方法:調査票を日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語の6カ国語で作成し、毎年4月に調査票を送付し6月までに回答を得、世界各地域のご意見を比較・分析して9月に調査結果を発表