2024年6月11日
シンバイオ製薬株式会社
造血幹細胞移植後におけるサイトメガロウイルス感染症患者を対象とした
注射剤ブリンシドフォビルによる第Ⅱa相臨床試験においてFPI(第1例目)を達成
シンバイオ製薬株式会社(本社:東京都、以下「シンバイオ」)は、この度、米国において実施中の造血幹細胞移植後のサイトメガロウイルス感染症*1(以下「CMV感染症」)患者を対象とした注射剤ブリンシドフォビル(brincidofovir、以下「BCV」)の第Ⅱa相臨床試験(以下「本試験」)において第1例目が、2024年6月10日(米国中部時間)に登録されたことをお知らせします。
本試験は、現在実施中の免疫不全状態のアデノウイルス感染症を対象とした第Ⅱa相試験においてプロトコル変更を行い追加適応症として、米国食品医薬品局(FDA)に本年2月に受理されたことによりCMV感染症を新たに対象としたものです。
造血幹細胞移植後のCMV感染症については、造血幹細胞移植後のウイルス感染の中で発症率は最も高く、既に予防薬あるいは治療薬はあるものの再活性化例や耐性・不応例が多く認められており患者数も多く、未充足の治療領域であることから医療ニーズが高い感染症です。Chimerix社が実施した経口剤BCVの臨床試験において、BCVがCMV感染症に対して高い有効性を示す結果が既に得られており、安全性の高い注射剤BCVによる臨床試験を開始するものです。
吉田文紀社長兼CEOは「この度、造血幹細胞移植後のCMV感染症を対象とした第Ⅱa相臨床試験が米国において開始され、FPIが達成できたことを嬉しく思います。様々な二本鎖DNAウイルスに活性を持つBCVの特性を活かして、他の適応症においてもPOCデータを活用して迅速に臨床試験を進めてゆきたいと考えております。」と語っています。
なお、本件が2024年12月期業績に与える影響はありません。
以 上
【注記】
*1 造血幹細胞移植後のサイトメガロウイルス感染症
造血幹細胞移植を受ける患者さんにおいては、移植した造血幹細胞が免疫システムを再構築するまでは、ウイルスをはじめとする様々な感染のリスクが高まっている状態が続きます。サイトメガロウイルスは幼少期に多くの人が感染するウイルスであり、その後体内で潜伏感染の状態にありますが、移植後など免疫力が著しく低下した場合に再活性化し、重篤な病態を引き起こすウイルスです。特に造血幹細胞移植後のサイトメガロウイルス感染は様々な臓器で重篤な、時に致死的な感染症を引き起こすことから、特に注意を要するウイルス感染と考えられています。抗サイトメガロウイルス作用を有する治療薬が複数承認されておりますが、いずれも骨髄抑制や腎機能障害などの副作用が強く、より安全に効果的な治療が行える抗ウイルス薬の登場が長く望まれていました。ウイルス再活性化の予防薬も利用できるようになりましたが、一定の割合で再活性化や感染が起こるため、より有効で安全性の高い抗サイトメガロウイルス薬へのニーズはいまだ高い状況です。
【抗ウイルス薬ブリンシドフォビル(brincidofovir:BCV)概要】
■ 作用機序
BCV は、米国で承認されているシドフォビル(CDV:cidofovir、本邦では未承認)の脂質結合体で、CDV に比べて細胞内への BCV の取り込み効率が飛躍的に向上しています。BCVが細胞内に取り込まれると CDV-PP(CDV diphosphate)に変換され、ウイルスの複製阻害作用により、高い抗ウイルス効果を発揮します。そのため、BCV は CDV や他の抗ウイルス薬と比べ、より低用量で広範囲の抗ウイルス効果を示すなど優れた特徴を併せもち、様々な 2 本鎖 DNA ウイルス(サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス等のヘルペスウイルスや、アデノウイルス、BK ウイルス、パピローマウイルス及びサル痘や天然痘ウイルス等)に対して有効な治療方法になり得るものと期待されています。
また BCV は、CDV を初めとする他の抗ウイルス薬に比べ、深刻な副作用である腎毒性または骨髄抑制を回避できる新規の高活性の抗マルチウイルス薬として期待されています。
■ 臨床試験
シンバイオは、免疫不全状態のアデノウイルス感染症患者を対象とした注射剤ブリンシドフォビル(IV BCV)の第Ⅱa 相臨床試験を開始し(2021 年 3 月)、FDA よりファスト・トラック指定(2021 年 4 月)を受けています。また、コーホート 3 までのデータに基づき抗ウイルス効果の POC(Proof of Concept)の確立を確認(2023 年 5 月)。同結果を基に、日本における用途特許を取得(2024 年 1 月)しました。本試験の中間解析結果は、米国血液学会年次総会(2023 年)、米国 2024 Tandem Meetings、欧州血液骨髄移植学会年次総会(2024 年)等の主要学会で口頭発表されました。
また、2024 年 6 月に、免疫不全状態のサイトメガロウイルス感染症に対する第Ⅱa 相臨床試験の第 1 例目の患者登録を実施しました。今後も POC データの確立をベースとして、臨床開発プラットフォームの構築を目指し、他の適応症に対する臨床開発を進めてまいります。
■ 非臨床試験
現在、著名な研究機関との主な共同研究開発として主に下記を推進しており、共同研究成果の学会発表も積極的に行なわれております。
EB ウイルスの関連疾患であることが近年証明された難病の多発性硬化症について、米国国立衛生研究所(NIH)に所属する米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)との間で、多発性硬化症の病態に対する BCV の EB ウイルスを介した効果を検討し、今後の臨床試験の実施に向けて必要とされる情報を得ることを目的として共同研究開発契約(CRADA:Cooperative Research and Development Agreement)を締結(2023年 3 月)、欧州多発性硬化症学会において、CRADA による最初の研究成果を学会発表(2023 年 10 月)
EB ウイルス関連リンパ増殖性疾患に対する BCV の有効性を評価することを目的とし、NIH に所属する米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)との間で CRADAを締結(2023 年 4 月)
アルツハイマー型認知症を含めた様々な脳神経領域の重篤性疾患に、潜伏しているウイルスの再活性化による感染の関与についての研究がこの数年進んでおり、米国タフツ大学により確立されたヒト神経幹細胞を培養し脳組織を三次元に模倣した単純ヘルペスウイルス(HSV)感染・再活性化モデルを用いて、HSV 感染に対する BCV の効果を検証するための委託研究契約(Sponsored Research Agreement)を締結(2022 年12 月)
シンガポール国立がんセンターとの共同研究では、細胞や動物モデルにおいて NK/T 細胞リンパ腫に対する BCV の抗腫瘍活性が確認され、学会で結果発表(2022 年 12 月米国血液学会・2023 年 6 月 International Conference on Malignant Lymphoma)
カリフォルニア大学サンフランシスコ校などとの間で、他の癌腫に関しても抗腫瘍活性を確認するための共同研究が進行中
■ ライセンス
2019 年 9 月、シンバイオは、Chimerix, Inc.(キメリックス社、本社:米国ノースカロライナ州)との間で、BCV に関して、オルソポックスウイルス(天然痘やサル痘など)を除いたすべての疾患で世界全域対象の開発・販売・製造を含めた独占的権利の取得を目的とするライセンス契約を締結しました。なお、2022 年 9 月にキメリックス社から BCV のライセンスを譲渡された Emergent BioSolutions Inc(エマージェント・バイオソリューションズ社、本社:米国メリーランド州)とライセンス契約を締結しています。
なお、錠剤および経口懸濁液(経口剤)は、2021 年 6 月 4 日に天然痘の治療薬として成人および新生児を含む小児の患者を対象に米国で承認され、現在はエマージェント・バイオソリューションズ社がライセンスを保持しています。また、BCV は EU(欧州連合)における免疫不全患者におけるアデノウイルス感染症とサイトメガロウイルス感染症予防に対するオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を受けています。
【当社会社概要】
シンバイオ製薬株式会社は、米国アムジェン社元副社長で、旧アムジェン株式会社の実質的な創業者である吉田文紀が2005年3月に設立した医薬品企業です。経営理念は「共創・共生」(共に創り、共に生きる)で表され、患者さんを中心として医師、科学者、行政、資本提供者を「共創・共生」の経営理念で結び、満たされない医療ニーズに応えてゆくことにより、社会的責任及び経営責任を果たすことを事業目的としています。なお、2016年5月に米国完全子会社 SymBio Pharma USA, Inc.(本社:米国ノースカロライナ州、代表者:ジョン・ホートン)を設立しました。